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廊下に物が散乱していた。
それは、ゆにっとばすとやらいう風呂場から居間(今風にはリビングとか言うらしい)の方へ、何枚ものタオルやら洗髪用ブラシやら、オマケに大量の水滴……。
多分、移動中に腕からこぼれ落ちたのだろうペット用シャンプーを拾い上げ、霧歌はため息をついた。
普段大人しい同居人は、一体何に夢中になっているんだろうか、と。
「何しておるのかや?」
「んー…………ぅ」
霧歌がリビングを覗き先客に声を掛けると、先客――夢流は背中越しに生返事を返してきた。
リビングに敷かれたカーペットの少し手前、フローリングをびしょぬれにして座り込んだ彼女は、ドライヤー片手に一心不乱に何かを乾かしていた。
何か……霧歌に思い当たるのはただひとつ。
夢流の相棒、モーラットのクランである。
夢流はドライヤーを脇に置くと、それを抱え上げて嬉しそうに振り向いた。
立ち上がった時、スカートの裾から水滴が滴り落ちたように見えたのだが、本人は全く気にしていないらしい。
「あのねあのね、霧歌ちゃん。クランがね、モーラットピュアに進化したの、です!」
なるほど、確かに昨日まであった額の星模様がハートに変わり、背中に白い羽根が生えている。
前よりふわふわ感が増した彼(?)は、夢流と揃って誇らしげな笑みを浮かべていた。
「それはまあ、うん、おめでとうじゃ。ところでの? 夢流」
「ん……はい? なの」
「濡れた服の上で乾かしても、いつまで経っても乾かんとわっちは思うのじゃがの」
「…………あ」
指摘されて初めて視線を落とす。
濡れた服に座らせていたクランの背中も、もちろんしっかり濡れている。
頭はそれなりに乾いていたのだが……ドライヤーの威力のお陰で。
「はぅぅ、着替えてくるの……ですぅ」
夢流は霧歌にクランを渡し、慌てて自室へ駆けていった。
霧歌はひとつため息つくと、クランを乾いた床に降ろして散乱したタオルを拾い集めに掛かった。
『きゅきゅ~』
ガタゴトという音に霧歌が振り向くと、クランはドライヤーの口をブラシに載せかけ、角度を付けてスイッチを入れた。
ゴーッとはき出される風に背中を向け、自分で続きを始めている。
どこか抜けた主人としっかり者の使役。
それはそれでバランスが取れているのだろうか……。
霧歌は廊下を片づけ、乾いたタオルを手にリビングへ戻りながらそんなことを考えていた。